株式会社 NAM

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ICML2017特集 part1

こんにちわ、株式会社NAMの中野哲平です。

 

世界最大の機械学習の国際会議の1つ、ICML (International Conference for Machne Learning) が約2週間後にシドニーで開かれます。自社の社員1名が研究発表をして来ます。

2017.icml.cc

今回から数回にわたり、ICMLで発表される論文の中から幾つかを厳選してレビューを行うことにします。

 

第1弾では、生命・医療系の論文に注目します。本会議と併設されて行われるワークショップ、WCB (Workshop on Computational Biology)はがん研究の屈指の研究所であるMSKCC (Momorial Sloan Kettering Cancer Center) のメンバーらによってオーガナイズされ、がん研究のスペシャリストが集う場として必ず毎年開かれています。論文の一覧は以下のURLからご確認いただけます。WCB @ ICML 2017 - Accepted Abstracts

 

今回はこのワークショップで発表される次の論文に焦点を当ててみます。

Hatice U. Osmanbeyoglu, Christina S. Leslie

Modeling the impact of somatic alterations in ubiquitin pathway genes across human cancers WCB_2017_paper_8.pdf - Google ドライブ

 

研究の目的

私達の体内には、ユビキチンという数多くの生命現象に重大な影響を与えるタンパク質があり、細胞内の他のタンパク質と結合する(ユビキチン化)ことにより、細胞内で不要になったタンパク質を除去する働きを有しています。仮に、タンパク質のユビキチン化に異常があると発がんリスクが高まることが知られています。このユビキチン化にはおよそ600種類あるユビキチンリガーゼと呼ばれる酵素がタンパク質に作用が影響しています。また、タンパク質のどの塩基にこれらのどのユビキチンリガーゼが作用するかは不明で、がんに対しての直接的な理解は得られていません。この問題に計算生物学的に取り組むのが本研究の目的です。

 

方法

本論文では、ガンの遺伝子発現を予測するために、DNAの転写因子の活動に注目しています。以前の記事がん治療・研究に対する計算生物学的アプローチ でも述べましたが、がんは遺伝子に異常があるため、細胞の増殖するスピードが異常に早くなる病です。転写因子(Transcription Factor)というのは、DNAの配列を認識及び結合することにより、遺伝子の発現をコントロールする機能を備えています。

 

本論文では、リンタンパク質(phosphoprotein)の発現と転写因子の活動を関連させて、片方のデータが与えられたときに、もう片方のデータを予測するモデルが提案されました。

 

ここで、リンタンパク質とは、リン酸基を含むタンパク質の総称で、タンパク質がリン酸化することによって数々の病気が起きることが知られています。特に、異常なリン酸化が起きると細胞の増殖にトラブルが発生し、発がんリスクが高まることが知られています。例えば、世界で最初に発見されたがん遺伝子(scrがん遺伝子)はこのタイプです。また、先に述べたユビキチン化もリン酸化の一つです。

 

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本論文で用いられている手法は主に、Osmanbeyogluらによって開発されたLinking signaling pathways to transcriptional programs in breast canceに基づいています。

 

結果

既に知られていた結果と整合性が取れた形で、さらに以前には知られていなかった新しい関係性が示唆されました。

 

以下の図では予測されるTFの活動とリンタンパク質の活動の対応がまとめられています。まず、4つのユビキチンリガーゼ遺伝子とどのTFが関連しているかを表したのが一番右のバーコードのような図にまとめられています。そして、人間の10タイプのがんに対するそれら4つの遺伝子の寄与が上の色付きのバーコードのような図でまとめられています。

f:id:Longman:20170729203849p:plain

 

 

他にも、例えば、TFとタンパク質のつながりを表す図の一つが次のように得られました。

 

f:id:Longman:20170729210434p:plain

そして、TFとタンパク質の相関関係が、例えば次の表で捉えられました。

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結論

この論文では、人のガンに対するユビキチンリガーゼ遺伝子同士の相互作用を明らかにするモデルが得られました。

 

人工知能とがんについて

 そもそも「がん」に対する現在最も根治的な治療は外科手術です。言い換えれば「手術できるうちに発見をして、がんによる被害を最小限にする」ということです。よって「人間からガンを発生させない」という研究よりは「がんの早期発見を正確に行う」という研究の方が圧倒的に現実感を持った研究というわけです。そういう意味で人工知能が人間よりもガンを早期発見できれば医療の未来は明るいと言えます。

 しかし全てのがんが外科治療で治るのは難しく、薬剤によるアプローチは非常に重要です。抗がん剤の中で最もテーマに上がるのは「耐性」です。それにCancer Heterogeneityという概念が非常に重要であり、弊社も研究を行っています。

 

 次回もICMLに関連する論文をご紹介する予定です。また、株式会社NAMからも、がん研究に関する関連論文が2本採択されています。共同研究・製品の共同開発等のご依頼も随時承っておりますので、是非ご連絡ください。