AUGRIM

AUGRIM~医療と機械学習を正しく伝える

がん治療・研究に対する計算生物学的アプローチ

 人工知能を用いて医療をより良くする研究は非常にホットな話題で、特に新薬の開発やがんの研究などは注目を集めています。

 

 例えば、クイズ王とクイズバトルをして勝利したことで一躍有名になったIBM人工知能Watsonは、今やがん治療に欠かせない新しい頭脳となるべく、世界トップレベルのがん研究所であるメモリアル・スローン・ケータリング・がんセンター(Memorial Sloan Kettering Cancer Center) との共同研究で目覚ましい成果を上げています。

forbesjapan.com

www.mskcc.org

 その他にも国内企業としては、深層学習に特化したベンチャーPFNもガン研究に非常に力を入れいます。

 

 ところで、機械学習の世界最大の国際会議の一つであるICML (International Conference on Machine Learning)では毎年、メモリアル・スローン・ケータリング・がんセンターが主催するワークショップが開かれています。弊社の論文が2本とも評価され、このワークショップで発表させていただく事になりました。WCB @ ICML 2017 今回はこの内の1つの論文について簡単にご紹介します。

研究の出発点

 まず、がんについて少し説明します。がんは遺伝子に異常があるために細胞の増殖が異常に早く進行する病気です。したがって、がんを治療をするには、がん遺伝子と通常の遺伝子を区別することが最初の課題です。

 がん化しやすい遺伝子というのがもともと私達の体内にありますが、この遺伝子はがん化するまでは正常の遺伝子です。この正常な場合と異常な場合を区別することが、がん治療の出発点です。具体的には遺伝子の発現量を比較することにより、どの程度がん化しているかがわかります。

がん細胞の複雑さを明らかにする

 ところで、通常、がんが発見されるレントゲン写真やCT画像などでは遺伝子は当然見えず、大まかに細胞ががん化していることだけがわかります。しかし、細胞の中にはたくさんの遺伝子があり、一口にがん細胞と言ってもその構造は非常に複雑です。つまり、どの遺伝子がどの程度がん化しているかを突き止めて初めて、がん細胞の全体像が見えるわけです。下記ではClonal Theoryと呼び、ガン発生初期の段階では単一のがん細胞しかいませんが、進行して行く中でがん細胞の中でも個性が生まれ(Sub Population)、多様性を生み出していきます。

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 そして、腫瘍の中でも場所によってその遺伝子の発現量は一般に異なっており、これを腫瘍内不均一性(tumor heterogeneity)と呼びます。私達の論文ではこの不均一性を数学的モデルを用いて表し、数百種類もある全ての遺伝子の発現量を一目でわかる図を作成しました。腫瘍内不均一性について詳しく学びたい方は下記を御覧ください。

Tumor Heterogeneity—A ‘Contemporary Concept’ Founded on Historical Insights and Predictions | Cancer Research

 

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 私達が用いたデータでは1つの腫瘍を6分割し、その腫瘍の各細胞にある遺伝子の発現量(Single-Cell Sequencing)が別の場所の細胞の同じ遺伝子の発現量とくらべてどの程度変化したかを表しています。z座標が遺伝子発現量、(x,y)座標で細胞の位置を表し、発現量の増減は赤・青で色分けされています。矢印の方向は遺伝子発現量の勾配を表しています。この勾配の方向が多様であるほど我々は多様性が高い腫瘍だと判定しています。

 つまり左の図では、腫瘍内不均一性の度合いが著しい、high heterogeneityを表しています。図からは、一つの腫瘍内に場所によって発現量が大きく異なる遺伝子があることが明らかになりました。右の図はlow heterogeneityを表しています。

 

腫瘍内不均一性の可視化が何の役に立つか?

がんの治療において、腫瘍内不均一性を知ることは非常に重要です。なぜなら、治療によって腫瘍が縮小しても、治療抵抗性のあるがん遺伝子が残る(これがhigh heterogeneity)可能性があり、やがてそれらが増殖してがんの再発に至ります。我々の研究は腫瘍内不均一の動きを勾配という観点から分析し可視化するものです。これにより既存のガンを新たなクラスタリングで分けることができ、予後の指標の一つにできる可能性があります。

 

弊社AUGRIMではこの論文の他にも、機械学習を用いて医療に関する様々な研究を行っております。共同研究や製品開発のご依頼などは随時承っておりますので、お気軽にご連絡ください。